2012年4月6日金曜日

龍の鱗

中学生くらいで読んだ小説で、龍の鱗の話があったな。
短編集なんだけど、どれも龍の鱗がモチーフになっている。
どの話の中でも、龍の鱗は大事なもので、みんなが欲しがってやまない。
神秘の力を持っている。

その中の最後の話が特によく覚えてる。

絵描きの話。
それなりに有名な作家が、壁画のコンペか何かに参加することになって、
優勝したものがテーマパークの外装に使われることになった。
決められたテーマは龍の絵。
でもここの数年、その絵描きはあまり良い絵が描けてなくて、
プライドだけはあるので、ライバルの画家を見下し、その反面嫉妬に狂ってた。
もの静かで謙虚なライバルには、病弱の息子がいるらしかったが、そんなことはどうでもいい、
負ける訳にはいかない主人公は、弟子達が感嘆の声を挙げるほどの、数年来の傑作を完成させる。
安堵した彼は、ライバル画家の作品を偵察に行った。
そこで見たものは、自分の力なんて到底及ばない、これこそが傑作といえるものだった。
主人公の絵が嵐のような絵とするならば、ライバルの作品は、静かな海のようだった。
それでいて、沸き上がるような生命力を感じる作品だった。
かなわないと一瞬で悟った主人公は、ふらふらと公園に逃げ込む。
奇しくもそこでライバルと、その息子の会話に遭遇する。
息子は首から袋をぶらさげており、それは父からもらったお守りらしい。
影からしばらく聞いていると、そのお守りはどうやら「龍の鱗」らしい。
何やら不思議な力を持つそのお守りは、息子を守っているとのことだ。
2人が会話を終え別れるのを見届けると、主人公は息子に声をかけ、力づくで鱗を奪った。
雨が降り出した公園では、息子が1人倒れていた。
急ぎアトリエに戻った主人公は、早速鱗を取り出し、ほのかに温かく感じるその鱗を絵具で塗りつぶす。
自分の絵に足りないものが分かったのだ。
そしてその鱗を自分が描いた龍の目に装着した。
その途端、龍は動き始め、火を噴いた。炎が主人公を包むのは一瞬だった。
龍はそのまま、空に飛び立ち消えてしまった。
コンペ後、テーマパークの外装には、ライバルが描いた作品が使われる。
その静かな絵は、とても悲しい絵に見えた。
息子がどうやら死んでしまったらしい。

こんな話だった気がする。
ところどころ違うかもしれないけれど。
最近、この話をよく思い出す。
私が龍の鱗を手にしたら。
炎に包まれながらも作家は、究極の絵が描けた恍惚に酔いしれる反面、敗北感に包まれていただろう。
その死は成すべくしてなされたと思っていたに違いない。

3時半をまわろうとしている。

きみの承認欲求なんて、
わたしが全部埋めてあげるのに。

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