中学生くらいで読んだ小説で、龍の鱗の話があったな。
短編集なんだけど、どれも龍の鱗がモチーフになっている。
どの話の中でも、龍の鱗は大事なもので、みんなが欲しがってやまない。
神秘の力を持っている。
その中の最後の話が特によく覚えてる。
絵描きの話。
それなりに有名な作家が、壁画のコンペか何かに参加することになって、
優勝したものがテーマパークの外装に使われることになった。
決められたテーマは龍の絵。
でもここの数年、その絵描きはあまり良い絵が描けてなくて、
プライドだけはあるので、ライバルの画家を見下し、その反面嫉妬に狂ってた。
もの静かで謙虚なライバルには、病弱の息子がいるらしかったが、そんなことはどうでもいい、
負ける訳にはいかない主人公は、弟子達が感嘆の声を挙げるほどの、数年来の傑作を完成させる。
安堵した彼は、ライバル画家の作品を偵察に行った。
そこで見たものは、自分の力なんて到底及ばない、これこそが傑作といえるものだった。
主人公の絵が嵐のような絵とするならば、ライバルの作品は、静かな海のようだった。
それでいて、沸き上がるような生命力を感じる作品だった。
かなわないと一瞬で悟った主人公は、ふらふらと公園に逃げ込む。
奇しくもそこでライバルと、その息子の会話に遭遇する。
息子は首から袋をぶらさげており、それは父からもらったお守りらしい。
影からしばらく聞いていると、そのお守りはどうやら「龍の鱗」らしい。
何やら不思議な力を持つそのお守りは、息子を守っているとのことだ。
2人が会話を終え別れるのを見届けると、主人公は息子に声をかけ、力づくで鱗を奪った。
雨が降り出した公園では、息子が1人倒れていた。
急ぎアトリエに戻った主人公は、早速鱗を取り出し、ほのかに温かく感じるその鱗を絵具で塗りつぶす。
自分の絵に足りないものが分かったのだ。
そしてその鱗を自分が描いた龍の目に装着した。
その途端、龍は動き始め、火を噴いた。炎が主人公を包むのは一瞬だった。
龍はそのまま、空に飛び立ち消えてしまった。
コンペ後、テーマパークの外装には、ライバルが描いた作品が使われる。
その静かな絵は、とても悲しい絵に見えた。
息子がどうやら死んでしまったらしい。
こんな話だった気がする。
ところどころ違うかもしれないけれど。
最近、この話をよく思い出す。
私が龍の鱗を手にしたら。
炎に包まれながらも作家は、究極の絵が描けた恍惚に酔いしれる反面、敗北感に包まれていただろう。
その死は成すべくしてなされたと思っていたに違いない。
3時半をまわろうとしている。
きみの承認欲求なんて、
わたしが全部埋めてあげるのに。
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